栄養関連
経腸栄養
経腸栄養法とは
経腸栄養とは、通常の食事では患者様が十分な栄養を摂取することが困難な時で食べない方が治療上有利な場合に、残存している消化機能を活かして栄養管理を行うものです。一般的に、経腸栄養法には、経口摂取と経管栄養の二種類があります。
経口栄養は、文字通り口から食物・飲料を摂取するということで、特別に器具を必要とせず、一番自然な形での栄養摂取法です。また、食物・飲料を口から摂取するということは、単に栄養を摂取するということに留まりません。人は、目で色合いや盛り付けを、鼻で香りを、舌で味や食感を楽しんで食事をしています。つまり、経口栄養は、この食事の楽しみを保持するという点でも大切です。
経口摂取は、消化機能が残存しているだけではなく、咀嚼・嚥下機能、食欲がある場合に選択されます。また、患者さんの咀嚼・嚥下機能はあっても低下している場合には、様々な方法を用いて経口摂取を可能にすることができます。例えば、患者さんが固形物を食べにくい時には、ミキサー食、粥などの軟食または流動食を食べてもらうようにします。また、シック&イージーのような増粘剤(トロミ剤)を使用して、ミキサー食あるいは飲料にとろみをつけて嚥下をより容易にすることもできます。
しかしながら、疾患などの理由により経口摂取が不可能または十分に行えない場合があります。そのような場合には、栄養チューブを通して、直接胃・十二指腸・空腸に栄養剤を投与する経管栄養が行われます。経管栄養には、一般的に二種類あり、鼻腔から胃・十二指腸・空腸などの消化管内に栄養チューブを挿入して栄養剤を投与する経鼻法と、手術的あるいは内視鏡的に胃または空腸上部に瘻孔をつくり、栄養チューブを挿入し、他端を腹壁から出して固定し、その瘻孔チューブを介して栄養剤を注入する瘻管法があります。
経腸栄養の利点
経腸栄養には、様々な利点がありますが、特に、中心静脈から栄養を投与する中心静脈栄養と違って主に次のような利点があります。
- 腸管を使うため、腸管の粘膜も、腸の運動も正常に保つことができます。そのため、腸の粘膜が萎縮して薄くなるのを防ぎ、腸の粘膜さらにリンパ系を通って細菌が他の場所に移るバクテリアルトランスロケーションの危険性も低減することができます。
- 本来の生理的な栄養摂取経路を通るため、代謝も生理的に行われ、腸の免疫機能が低下しにくいといわれています。
- 人の体は食物を消化吸収する時に、水分や電解質など必要なものだけ保有して過剰なものを体外に排泄するという自動調整作用をもっていますが、腸管を使用する経腸栄養の方がこの調整を順調に行うことができます。
欧米諸国では”If gut works, use it”(消化管が動くなら活用せよ)と言われる通り、消化吸収能があるなら経腸栄養の可能性をまず第一の選択肢とするのが一般的です。ただし、どんな場合でも経腸栄養が静脈栄養に比べて優れているということではありません。大切なことは、患者様の栄養状態及び病状をスクリーニング(検査と診断)により的確に把握し、患者様おひとりおひとりにとって適切な栄養療法を選択するということです。
経管経腸栄養の適応と禁忌
静脈栄養と比較して、経腸栄養には利点がいつかあるため、消化機能が残存しているのであれば経腸栄養を選択するというのが基本的な考え方です。しかし、全ての患者様に、あるいはすべての状況下で経腸栄養が選択されるべき、ということではありません。経腸栄養を行うのに適している場合(適応)があり、また逆に経腸栄養を行ってはいけない場合(禁忌)とがあります。
経腸栄養の適応条件としては、一般的に次の通りです。
- 栄養状態が悪く、積極的に改善を必要とする場合、あるいはこれからそうなる場合。
- 栄養管理を必要とする期間が、少なくとも10日以上の場合。
- 嘔吐の危険性がない場合。
- 病態としては、短腸症候群、重症急性膵炎 これとは逆に、次のような場合は経腸栄養は禁忌、中心静脈栄養(TPN)の適応です。
- 腸管の通過障害ある場合:腸閉塞など。
- 悪心、嘔吐がある場合:難治性嘔吐など。
- 下痢の強いとき 消化管虚血、広汎性腹膜炎
- 受傷(手術)後、または入院後の早期の腸管機能回復
経腸栄養とポンプ
経腸栄養とは、疾患により、通常の食事では患者様が十分な栄養を摂取することが困難な時に、残存している消化機能を活かして栄養管理を行うものです。経腸栄養には、経口栄養(口から栄養を摂取する)と経管栄養(栄養チューブを通して直接胃・小腸から栄養を摂取する)があります。また、経管栄養には、瘻管法があり、これらは経腸栄養用ポンプの適応となります。
ポンプを使用することにより、経腸栄養療法の合併症である下痢、嘔吐、誤嚥、及び誤嚥性肺炎発症頻度を低減させることができます。1) これらの合併症、特に誤嚥性の肺炎の治療に要する時間及び費用は少なくはありません。ヨーロッパでは、肺炎の治療のために患者様一人あたり2,000ユーロ(US$2,280)かかると報告されています。3) ポンプで経腸栄養を行うことにより誤嚥性肺炎等を予防し、治療のための時間と費用を減少させることができます。
経腸栄養を安全に施行するには、病態に沿った投与計画が重要です。
経腸栄養ポンプの適応
経腸栄養ポンプを使用して的確に栄養剤を投与する際の適応として以下の場合が考えられます。
1. 経腸栄養施行時の合併症の回避1)
経腸栄養を実施する場合消化機能が低下している際、投与速度が速いと下痢を起こしやすくなる。この時にはポンプを使用してゆっくり投与する。2)
2. 嘔吐、吐気の回避1)
腸管運動が低下して、嘔吐、吐気や腹部膨満感がある場合があります。これらを回避する際もポンプの適応で、投与速度を低下させて投与します。
3. 持続投与
栄養チューブの先端を幽門の後へ留置した場合には間欠投与ができないので、持続投与が求められます。この場合もポンプは適応です。上記以外でも以下の場合は適応です。
4. 手術侵襲が大きい術後の経腸栄養
5. 在宅成分栄養経管栄養法施行時
6. 意識障害や嚥下反射の低下がある場合
7. 血糖値の維持3)
欧州では自然滴下では、改善できなかった様々な課題がポンプを使用することにより改善されています。まず、治療費の削減があります。5)6)
又、最近の研究結果では、大多数の患者様が、研究終了後も自然滴下による栄養剤の投与よりポンプによる栄養剤の投与の継続を望んだという報告があります。4) ポンプを使用し、下痢、嘔吐、誤嚥、及び誤嚥性肺炎の発症をできるだけ防ぐことは、患者様に、より苦痛の少ない経腸栄養療法を提供し、QOLを向上させることができるのです。
[参考文献]
1) 五関謹秀他、「第三章 成人の経腸栄養管理」、静脈・経腸栄養ガイドライン、日本静脈・経腸栄養研究会編、23-36、1998
2)
Ann Livingston, et. al: If the Gut Works Use It, Nursing Management, 31(5), 39-42,
2000
3) Edward Shang MD, et. al: Pump-Assisted Versus Gravity-Controlled Enteral
Nutrition in Long-Term Percutaneous Endoscopic Gastrostomy Patients: A Prospective
Controlled Trial, 27(3), 216-219, 2004)
4),5),6) Edward Shang MD, et. al: Pump-Assisted
Enteral Nutrition Can Prevent Aspiration in Bedridden Percutaneous Endoscopic
Gastrostomy Patients, Journal of Parenteral and Enteral Nutrition, 28(3), 180-183,
2004
5) 東口高志他、「Potluck Party Methodを用いた全科型NSTの医療経済効果」、栄養-評価と治療、17(3)、407-417、2000
6)
中村丁次、「栄養障害の重症予防に関する管理栄養士の技術」、栄養日本、47(5)、368-371、2000
経管栄養
経管栄養の種類
経口で栄養を摂取することが何らかの理由で困難な場合に、栄養チューブを通して、直接胃・十二指腸・空腸に栄養剤を投与する経管栄養が行われます。経管栄養には、一般的に以下の二種類があります。
経鼻栄養チューブ法
経鼻栄養チューブ法は、チュ-ブを経鼻的に胃・十二指腸或いは空腸に挿入できる方法で合併発現率が低く、比較的安価で留置も容易です。
手術操作も必要なく、最も手軽で一般的に行われている方法であり、比較的短期(通常4~6週間以内)で栄養管理が必要な場合に用いられます。チューブ先端を留置する場所によって、異なる長さのチューブを選択します。また、その材質もポリウレタン、シリコンなどがあり、患者さんの状態に合わせてチューブを選択することが可能です。
瘻管法
栄養管理が比較的長期に及ぶ場合に用いられるのが、瘻管法です。この瘻管法は、胃瘻(PEGを含む)、腸瘻に大別されます。特に、胃に瘻孔を作りチューブを挿入する胃瘻造設術は、近年増加してきています。経鼻法とは異なり、内視鏡下で低侵襲的に留置する必要がありますが、手技に要する時間は短時間で済みます。また、造設した後は瘻孔部分を清潔に保つことが必要となりますが、通常一週間を過ぎると入浴も可能です。さらに、経鼻法と異なり、経口摂取を妨げないために、胃瘻を造設して経口摂取へのリハビリテーションを行うこともできます。
胃瘻を造設した後、チューブは定期的に交換するが必要があります。ただし、そのチューブの材質により長期間留置できるチューブもあります。または、経皮的に交換が可能な、交換用のチューブへと移行することも可能です。さらに、活動範囲の広い患者様の場合には、対表面からチューブの出ていない経皮的に交換が可能な、交換用のボタンへと移行することもできます。いずれにしても、患者様の病状・意向、また介護されるかたの意向も考慮し、チューブを選択することが大切ですが、主治医の先生とよく相談して栄養法を選択されることが重要です。
栄養投与の経路
栄養投与の経路には、大きく分けて4つあります。一つ目は、口から摂取する経口摂取です。二つ目はチューブを使って胃あるいは小腸へ投与する経管経腸栄養、そして静脈より栄養を摂取する、中心静脈または末梢静脈栄養です。
我々が健康な状態にある時は経口から栄養を摂取することが可能であり、この方法が一番自然な方法です。しかしながら、経口摂取が疾患等の理由により、不可能になることがあります。その時に使われるのが、経管経腸栄養あるいは静脈栄養です。
経鼻経管栄養は、文字通り鼻あるいは胃瘻からチューブ(管)を挿入し、胃又は小腸(十二指腸あるいは空腸)へと栄養を投与するわけですが、チューブを通しての栄養であるため、普通食をそのままチューブに通すわけにはいきません。そこで利用されるのが、成分栄養、半消化態栄養、消化態栄養といった栄養剤です。
経口摂取にしても、経管経腸栄養にしても、重要なのは消化管が機能していて、消化吸収機能が働いているということです。経口摂取が無理でも、消化管が機能している限りは経管経腸栄養が第一の選択になります。
逆に、消化管が機能していない時は、静脈へ栄養を投与する静脈栄養療法を選択する必要があります。静脈栄養には、中心静脈より栄養を投与する中心静脈栄養、末梢静脈より栄養を投与する末梢静脈栄養があります。中心静脈栄養はそれだけで必要栄養投与量を摂取することができますが、末梢静脈栄養は投与できる栄養剤の量に限りがあるため、短期の栄養投与あるいは経腸栄養では栄養量が不足してしまうときなど補足的に利用されます。

ヨーロッパでの栄養療法
ヨーロッパでは、約20~30%の患者様が、入院時に低栄養を呈しているという報告があります。また、その内多くの患者様は入院中に必要量の栄養を摂取することができず、さらに体重を減少させてしまいます。病気である上に、低栄養を伴えば、合併症の危険性の増加、感染症への抵抗力の減少、身体的・精神的機能への障害、回復の遅れなどの危険性があり、さらに生命を危機にさらすことにもなりかねません。*1、*2
入院時の低栄養の頻度の高さを受けて、2003年11月、欧州議会(Council of Europe*3)病院における食事と栄養のケアに関する指針を発表しました。その中で、低栄養の原因をつきとめ、患者様の栄養状態をスクリーニングにより的確に把握し、患者様おひとりおひとりの状態に適した栄養サポートを行うことを提唱しています。
日本での栄養療法
日本においても、栄養状態を的確に把握することの重要性が認められてきており、 NST(Nutrition Support Team: 栄養サポートチーム)の組織化が進んでいます。NSTとは、医師、看護師、栄養士、薬剤師、また医事課の職員などからなる専属チームで、患者様の栄養状態をアセスメントによって的確に把握し、必要なら介入を行うなど、患者様おひとりおひとりの栄養管理をチームで包括的に行おうというものです。日本静脈経腸栄養学会は、このNSTの有用性、重要性を啓蒙すると同時に、より多くの医療施設にNSTの設立・運営を促しています。現在、日本全国ですでに900以上の施設が日本静脈経腸栄養学会の認定したNSTの組織を立ち上げており、今後も増えていくものと考えられます。
*1 McWhirter J P, Pennington Cr, Incidence and recognition of malnutrition
in hospital. BMJ. (1994) 308;945-8
*2 A.M. Beck, et.al. food and nutritional
care in hospitals: how to prevent undernutrition-report and guidelines from the
council of Europe Clinical Nutrition )2001) 20)5; 455-460
*3 Council of Europe Resolution ResAP (2003)3
(http://www.nutritionday.org/uploads/media/Resolution_of_the_Council_of_Europe.pdf)
経腸栄養ポンプ、経鼻栄養チューブ(カテーテル)、PEGの詳しい資料につきましては、「医療従事者の皆様へ」を参照して下さい。